病気や治療についての情報をご紹介します。
林 理恵(リハビリテーションセンター・理学療法士)
1.レジスタンストレーニングとは?
糖尿病の運動の種類として、現在効果があると認められているものは体操と有酸素運動とレジスタンストレーニングです。体操には準備体操や整理体操、ストレッチングなどがあります。有酸素運動には歩行、ジョギング、水泳、自転車などがあります。有酸素運動が一番よく知られていて実際に実行されているのではないかと思います。レジスタンストレーニングは「レジスタンストレーニング?聞いたことはあるけどなんだろう?」「知ってるけどやり方がわからんなあ」などなどで実行されてない位置のようです。そこで今日はレジスタンストレーニングについて詳しくお話しをしたいと思います。
レジスタンストレーニングとはそのまま抵抗運動という意味で、具体的には重りやダンベル、ゴムチューブなどで筋力、筋持久力を高める運動のことです。施設に行けば写真のような器械(油圧)を使ってできるところもあります。
2.レジスタンストレーニングが何故注目されているか
何故レジスタンストレーニングが注目され始めたかというと色々な効果が解明されてきた為です。レジスタンストレーニングというとスポーツをする人や整形疾患に対して効果が大きいイメージが強いのですが、加齢変化、例えば筋力低下や持久力低下それに伴なう日常生活能力低下、呼吸器疾患や糖尿病に対して効果があることがわかってきました。糖尿病に対しては、糖処理能力向上による食後血糖上昇の抑制や脂質代謝の向上が確認されてきました。また以前は高齢者や高血圧、循環器疾患の方は危険だといわれていましたが、注意して行えば危険ではないことが研究結果明らかとなり、安全面の問題も解決してきています。
これを受けて厚生労働省のほうでは1997年の生涯を通じた健康づくりのための身体活動のあり方を発表しています。これには健康に暮らす為の条件の一つとしてレジスタンストレーニングの具体案が取り込まれています。つまり国からもレジスタンストレーニングの重要性が示唆されて、支持されてきているということです。
3.運動の種類による効果の違い
ではレジスタンストレーニングをすると身体にどのような効果があるのでしょうか。それを表にまとめてみました。糖尿病に効果のある体操、有酸素運動、そしてレジスタンストレーニングの効果の共通点と相違点をまとめています。体操と有酸素運動の効果はご覧の通りですので割愛します。
レジスタンストレーニングと体操が共通する効果としては障害・事故の予防になるという点です。体操は、有酸素運動の前後に行います。準備体操は血液の流れを促進させて血管が激しい仕事に耐えられるよう準備し、筋肉や神経系の回路に刺激を与えて動作を円滑にして事故や怪我を予防します。整理体操は運動終了後、筋ポンプ作用の急激な減少により心臓に過度な負担をかけることを防ぎます。一方レジスタンストレーニングをすると筋肉がつきます。筋肉は関節の緩衝作用を持っています。緩衝作用とは、衝撃をやわらげる、つまり関節のクッションの役割があります。加齢により筋肉が衰えてくると関節に直に負担がかかり痛みが生じる原因となります。したがってレジスタンストレーニングで筋肉がつくと関節の負担を減り、障害を予防します。また筋肉がつくと筋ポンプ作用が促進し、運動に対して身体の順応性がよくなります。
有酸素運動との共通点は血糖値の急性降下が見られることです。有酸素運動同様エネルギー消費による糖質の分解が起こります。また運動中と運動後しばらくはインスリン不在の状態でも筋肉内に糖が取り込まれ、血糖値が下がります。これを血糖値の急性降下といいます。同じ心拍数で有酸素運動とほぼ同じ効果があることが明らかになってきています。
レジスタンストレーニング特有の効果としては、筋力・筋持久力上がるのはもちろんですがそれに伴い基礎代謝も向上します。基礎代謝が向上すると安静時のエネルギー源である遊離脂肪酸(FFA)の消費量が増えます。つまり安静時の脂肪代謝増加により太りにくい身体、やせやすい身体をつくることができます。
またレジスタンストレーニングのもう一つの特有の効果は、筋内の糖貯蔵量が増えることです。筋肉の中には糖をためこむ貯金箱があります。筋肉を鍛えて筋線維が肥大すると一緒に貯金箱も大きくなります。その結果よりたくさんの糖分を溜め込むことができるので、血糖値が下がります。
4.レジスタンストレーニングの 注意点(事故を防ぐ)
レジスタンストレーニングには前述のような効果がありますが、安全にかつ効率的に筋肉をつけるために注意することが3つあります。1つ目はまず医学的な検査を行なってください。レジスタンストレーニングの場合、ベッド上での運動も可能な為、有酸素運動に比べ適応者は増えると思いますが、合併症や血糖コントロール不良の方は医師の許可を得てはじめるようにしてください。2つ目は運動中は呼吸を止めないでください。重りを持ち上げる時にたいてい息を止めて力んで腹圧をかけて持ち上げる場面を見ますが、血圧の上昇や、心臓への負担が考えられます。どうしても息が止まる場合には重りを軽くしましょう。余裕があれば腹式呼吸で行うとよいでしょう。腹式呼吸の方法は以下の様に行います。(1)鼻から吸って口から吐きます(2)吸うときおなかは膨らみ、吐くときおなかは凹ませます(3)力を入れるときに息を吐きます。
3つ目は筋や靭帯等を痛めないように反動をつけないようにしましょう。運動の継続と安全性、糖・脂肪代謝の面から低負荷・低速度で行うと良いでしょう。更に高頻度行なうことをお勧めします。しかし負荷と回数は翌日の疲労度、筋痛、継続等を考え、調節する必要があります。
5.レジスタンストレーニングの処方
では実際にどういう風に運動するのかみていきます。
レジスタンストレーニングする時に考えなければいけないのは、この4つです。どういう風な運動するか。つまりどこの筋肉を鍛えるか。それから強度や重りの重さはどのくらいにするか。何回ぐらいするか。週に何回ぐらいするか。それを順にお話ししたいと思います。
種類については本にはたくさんありすぎてどの運動をしていいのかわからない方が多いと思います。当院では4種類の運動を挙げています。糖尿病の方が糖・脂質代謝のためにやって欲しいトレーニング,肩・腰・膝とそれぞれ痛みを和らげる為の筋力トレーニングです。特に腰や膝の深刻な痛みの方は有酸素運動ができないという現実があると思います。痛みでお悩みの方はまずはレジスタンストレーニングをして痛みを和らげてから有酸素運動を始めることをお勧めします。ただしレジスタンストレーニングはあくまで対症療法ですので、痛みが改善しないこともあります。また運動によって痛みが憎悪する場合は中止して医師の指示に従ってください。
6.糖尿病全般的なトレーニング
レジスタンストレーニングの効果として血中の糖をインスリン不在の状態で筋内に取り込むこと、筋内の糖貯蔵量増加があげられます。しかしこれらは動かした筋肉だけで起こる反応です。その為、糖尿病の筋力強化はなるべく大きな筋肉・沢山の筋肉を粗大的に強化することが大切です。これを元に身体を大きく4つに分けて全身の筋力強化をします。腹筋、背筋、上半身、下半身です。また体力に合わせてレベルを選択します。
7.レベル1 立って歩けない人

レベル1は立って歩くことが困難で有酸素運動ができない方に適応です。
(1)腹筋
頭を持ち上げ、おへそを覗き込む。
(2)背筋
両手を挙げ、万歳する。この時しっかり背筋を伸ばす。
(3)上半身
手をお尻の後方につき、肘を曲げ伸ばしする。
(4)下半身
仰向けで寝て、片膝を立てる。対側の脚を膝を伸ばしたまま5秒間挙上する。
8.レベル2 高齢者

レベル2は高齢者や運動習慣のない方向けです。
(1)腹筋
自力で起き上がることのできる高さの枕を背中に置く。両膝は曲げておく。そこから起き上がる。
(2)背筋
うつ伏せで両肘を立てて、胸を張るようにしながら身体を床から離す。
(3)上半身
手足を腰幅に開き,壁に手をつく。体を前に傾け,腕に体重をのせる。ゆっくり肘の曲げ伸ばしをする。
(4)下半身
椅子からゆっくり立ち上がり、ゆっくり坐る。
9.レベル3 中高年

レベル3は中高年むけです。
(1)腹筋
両膝を立て、仰向けで寝る。肩甲骨が浮くまで起き上がる。
(2)背筋
うつ伏せで両手は体側につける。ゆっくり両肩を床から離し、5秒間保持する。
(3)上半身
四つ這いになって、肘の曲げ伸ばしをする。
(4)下半身
両足を平行にし、肩幅まで広げる。背筋を伸ばしたままゆっくり膝を曲げ、90度くらいまで曲げてゆっくりもとに戻す。
10.レベル4 若年者

レベル4は若年者むけです。妊婦の場合は腹部を圧迫するような腹筋や背筋の運動は行わないようにしてください。
(1)腹筋
両膝を立て、仰向けで寝る。この状態から起き上がる。
(2)背筋
両手を万歳した状態でうつぶせとなる。一方の腕と反対の足を床から持ち上げ、5秒間保持する。反対も同様。
(3)上半身
両手両膝を床についた姿勢から肘を曲げ、腰を伸ばすようにする。その後肘を伸ばす。
(4)下半身
レベル3同様膝の曲げ伸ばしをする。膝を伸ばすとき、そのまま爪先立ちをする。
11.肩の痛みに対するトレーニング レベル1

肩の痛みに対しては、レベル1と2があります。より深刻な痛みの方はレベル1を選択します。このレベルの方は、運動により痛みが増強する場合もありますので、運動をやってもよいかどうか専門の医師に確認後開始してください。
肩関節は人体の中でも大変不安定な関節で、その安定性は肩の深部にあるインナーマッスル(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)と呼ばれる筋肉によります。加齢に伴う筋力低下、柔軟性の低下により、この筋肉は傷つきやすくなっています。その為ふとした拍子に損傷し、痛みを生じることがあります。五十肩もその一つです。痛みを除くためには損傷部位の炎症がおさまるのを待ち、損傷して弱くなった筋肉を強化して、肩の安定性を増すことが重要になります。
(1)振り子運動
健側の手を壁や台につき、足を前後に開く。体重を前後に移動させ、体を揺らした反動で腕を揺り動かす。
(2)外旋筋群
セラバンド(医療用ゴムチューブ:リハビリ室にて販売)を持ち肘を90°に曲げて脇を閉める。患側の前碗を外側にひっぱる。このとき、肘が体から離れたり、肘が伸びたり手首を返したりしないようにする。
(3)内旋筋群
セラバンドを肘の高さで柱にくくっておく。(2)と同様に肘を90°に曲げ、脇を閉める。前碗を内側に引っ張る。この時肘を90°保ち、手首がかえらない様に注意する。
(4)外転筋群
両手にセラバンドを持ち、肘を伸ばしたまま患側を45°まで横に開く。
12.肩の痛みに対するトレーニング レベル2

レベル2は肩こり程度の方です。肩こりは肩周辺の疲労蓄積や血行不良が原因でおこります。したがってとにかく動かして肩回りの循環を良くすることが重要になります。ただし、腕を勢いよく動かしたり、ぐるぐると回すような方法では筋や靭帯損傷の可能性がありますので避けるようにしてください。レジスタンストレーニング加えて肩周辺のストレッチングの併用をお奨めします。
(1)肩をすくめる
両手にペットボトルを持ち、腕を下ろしておく。両肩を耳に近づけるように挙上する。
(2)腕を前方に挙げる
腕を前方に90°まであげ、3秒保持してゆっくりおろす。
(3)腕を横に挙げる
肘を伸ばしたまま腕を横にあげる。45°程度あげたら、そこで3秒保持し、ゆっくりおろす。
(4)腕を天井に向って挙げる
両手を肩上まであげる。左肘を天井に向けて伸ばす。3秒保持してゆっくりおろす。
13.腰の痛みに対するトレーニング(腹筋・背筋を狙え!)

腰の痛みの原因はいろいろありますが、多くは腹筋・背筋筋力低下によっておこります。その為腰の痛みに対するレジスタンストレーニングは腹筋と背筋の強化につきます。通常レジスタンストレーニングは週2〜3回が基本ですが、腹筋と背筋は大きな筋肉で強化運動による損傷は少ないため毎日行ってもかまいません。
(1)腹筋
両膝を立て、反動をつけずに体を起こす。腰の痛みが強い場合や、起き上がれない場合は腰の部分に枕を挟む。
(2)背筋
うつ伏せで両手は体側につける。ゆっくり両肩を床から離し、5秒間保持する。
14.腰の痛みに対するトレーニング(大腿四頭筋を狙え!)

膝に痛みのある方は、大腿四頭筋と呼ばれる太ももの前面の筋肉を鍛えてください。特に膝上の内側にある内側広筋と呼ばれる筋肉は膝をしっかりと固定するために重要です。運動時は内側の筋肉が動くかどうか意識して行うとよいでしょう。
痛みの度合いによってレベルを3段階に分けています。痛みのでない運動を選択してください。
レベル1 重度の痛み
膝の下にタオルをおく。膝の裏でタオルを5秒間押さえつける。
レベル2 中等度の痛み
仰向けで寝て、片膝をたてる。対側の脚を膝を伸ばしたまま5秒間挙上する。
レベル3 軽度の痛み
椅子に坐り、右膝をしっかり伸ばす。5秒間保持してゆっくり下ろす。反対も同様に行う。足首に重りを巻くのもよい。
15.強度(負荷)決定
糖尿病の有酸素運動では、糖・脂質代謝の側面から最大酸素摂取量の40〜60%が最適です。脈拍は100〜120回/分、自覚的には「やや楽である」「いつまでも続く」の、ニコニコペースで十分です。レジスタンストレーニングでも同様に脈拍数や自覚的運動強度を使用して構いません。
ただ重りの重さや先ほどの運動のレベルを決めるときにはRM法がよいでしょう。RM法とはある重量に対してそれを何回繰り返すことができるかその回数を示すものです。1RMとはある運動を適切なフォームで1回だけできる重さやレベルのことで、その運動筋の最大筋力に当ります。糖尿病の運動は最大筋力の40〜60%が最適ですのでこれを回数RMに換算すると、連続で16回〜24回繰り返すことができ、25回目は繰り返すことのできない重さやレベルが最適な強度といえます。つまり重りをつけて16〜24回繰り返すことのできる重さがちょうどよい重りです。また筋力をつけたい方は連続で4回〜12回繰り返すことのできる重さやレベル、筋持久力(高齢者向け)をつけたい方は20回〜30回繰り返すことのできる重さやレベルがよいでしょう。
16.回数と頻度
重さやレベルを決めたら、実際には10〜12回を3セット行います。筋力をつけたい方は高負荷低頻度、回数で3〜8回を1〜2セット、筋持久力をつけたい方は低負荷高頻度、回数で14〜18回を2〜3セット行います。トレーニングで生じる筋組織内の微小な損傷の回復約2日〜4日(48時間〜96時間)かかります。その為週に2〜3回が適当な頻度と考えます。
最後にレジスタンストレーニングの効果を更にあげる3原則についてです。1つ目は過負荷の原則です。レジスタンストレーニングの時は通常発揮している力以上の重さの設定しましょう。RM法を使用すればまず問題はありません。2つ目は漸増負荷の法則です。レジスタンストレーニングを続けると体力や筋力が向上し、今までと同じ重さやレベルでは物足りなくなり、効果もあがらなくなります。その為体力や筋量の向上にあわせて負荷を高めていく必要があります。3つ目は可逆性の原則です。これはやめると効果が消失し、元に戻ってしまうことです。運動の効果は3日以内に低下しはじめますので、運動は3日以上はあけないようにしましょう。
継続は力なり。イチローも言っています。とにかく続けることが大切です。「運動はめんどくさい」のマイナス発想から「運動は健康への近道だ」とプラスの発想に転換して楽しんで続けましょう。

